ミームには寿命がある
少し前まで誰もが使っていた言い回しやフォーマットが、ある時期を境に急に古臭く感じられるようになる。インターネット上で流行するものには、ほぼ例外なくこの現象が起こります。
面白いのは、内容そのものは何も変わっていないのに、受け取られ方だけが変化する点です。同じ画像、同じ言い回しでありながら、ある時期には「分かっている人の証」であり、別の時期には「今さら使っている人」の印になります。
この記事では、ミームが生まれてから使われなくなるまでの流れを 5 つの段階に分けて整理し、なぜ寿命が生まれるのかを考えます。流行りの言葉を追いかける話ではなく、流行という現象そのものの構造の話です。
第 1 段階 : 発生
最初は特定の投稿、配信中の一場面、あるいは何気ない書き込みとして生まれます。この時点ではミームですらなく、単に面白い出来事にすぎません。
重要なのは、多くの場合その発生源が意図的に作られたものではないという点です。狙って作られた投稿より、偶発的に生まれたもののほうが広がりやすい傾向があります。作為が見えると、受け手が乗る余地が減ってしまうからです。
この段階では、原典を知っている人の数は非常に少なく、流通範囲は特定のコミュニティの内側に限られます。
第 2 段階 : 内輪での拡散
元ネタを知る少数の人たちの間で繰り返し引用されるようになる段階です。ここでミームは共通言語としての機能を獲得します。
この時期のミームには、意味を伝える機能と同時に、身分証明としての機能があります。同じネタを使えるということは同じ場所を見てきたということであり、それ自体がコミュニティへの帰属を示す信号になります。ミームの価値の相当部分は、この「知っている人だけが分かる」という排他性から生まれています。
この段階のミームは情報量が高い状態にあります。短い一言で、文脈も感情も所属も同時に伝えられるからです。
第 3 段階 : 変異とテンプレート化
元ネタから離れた形で応用され始めると、拡散の速度が一段上がります。画像の一部を差し替える、言い回しの一部だけを別の単語に置き換えるといった形で、誰でも再生産できる型になるのがこの段階です。
型ができると参加の敷居が一気に下がります。元ネタを見ていない人でも型に沿って作ることはできてしまうからです。ここでミームは発生元のコミュニティを越え、はるかに広い層へ届きます。
同時に、この段階でミームは元の意味から切り離され始めます。何を意味していたのかを知らないまま使う人が多数派になり、意味はだんだん「なんとなく面白い」「なんとなくその場に合っている」という曖昧なものへ変わっていきます。
第 4 段階 : 飽和
大手アカウント、テレビ、企業の広報アカウントが使い始める段階です。ミームがどれだけ広がったかを測る指標としては分かりやすいのですが、当事者にとっては終わりの合図でもあります。
飽和が起きる理由は単純です。第 2 段階でミームに価値を与えていた排他性が、この時点で完全に失われるからです。全員が知っているネタは、もはや誰の所属も証明しません。共通言語としての機能だけが残り、身分証明としての機能が消えます。
さらに、参入コストが極端に低いために供給が需要を上回ります。同じ型の投稿が大量に流れ、一つ一つの投稿から得られる面白さは急速に薄まっていきます。記号は使われるほど摩耗するという言語一般の性質が、圧縮された時間の中で起こっているとも言えます。
第 5 段階 : 死語化と皮肉的な再利用
使うこと自体が「遅れている」と受け取られるようになる段階です。ここでミームは実用的な役割を終えます。
ただし、完全に消えるわけではありません。多くのミームは、あえて古いものを使うという形で再利用されます。寒いと分かったうえで使っている、という一段上の文脈が乗ることで別の意味を持ち始めるのです。この二重化された使い方は、結局のところ「今それが古いと知っている」という新しい種類の身分証明として機能しています。
また、何年も経ってから懐古の対象として復活することもあります。この場合は当時を知る世代の間だけで通じる合図に戻り、第 2 段階に近い状態へと巻き戻ります。
今どの段階にいるかを見分けるサイン
-
元ネタの説明が添えられているか
説明なしで通じている間は第 2 段階、解説記事が出始めたら第 3 段階に入っています。 -
型が固定されているか
毎回同じフォーマットで再生産されるようになったら、拡散のピークは近いと考えられます。 -
企業や公的なアカウントが使っているか
これが観測できた時点で、既に第 4 段階に到達しています。 -
「まだ使っている人がいる」という言及が現れるか
ミームそのものではなく、ミームを使う人についての言及が増えたら第 5 段階です。
なぜサイクルが年々速くなるのか
体感として、ミームの寿命は短くなり続けています。理由はいくつか考えられます。
一つは、拡散を担うプラットフォームの推薦アルゴリズムが、反応の集まっているものをさらに強く押し出す仕組みになっていることです。第 3 段階から第 4 段階への移行が、以前とは比べものにならない速さで進みます。
もう一つは、再生産のコストが下がり続けていることです。画像編集も動画編集も専門的な技能なしに数分で行えるようになり、供給の増加速度が上がりました。飽和に到達するまでの時間が短くなれば、当然寿命も短くなります。
まとめ
ミームは発生、内輪での拡散、変異とテンプレート化、飽和、死語化という 5 段階をたどります。
寿命が生まれる最大の理由は、ミームの価値の一部が「知っている人だけが分かる」という排他性に由来しており、その排他性が広まることそのものによって失われるという構造にあります。広がるほど価値が減るという逆説を、最初から抱えているわけです。
流行を追いかけるかどうかは好みの問題ですが、この構造を知っておくと、あるネタが今どのあたりにいるのかを冷静に眺められるようになります。
コメント